昔ながらの家づくり

 

野の草とつくる昔ながらの家づくりは、木組み土壁による伝統構法の家です。
地震、台風、梅雨のある温暖多湿な日本の気候風土のもとで、自然により添い健康で安心して暮らしていくために、野の草がたどりついた答えです。
そして家は一時の自分たち世代の満足のために建てるのではなく、これから先の未来へとバトンをわたす行為です。
先人たちが残してくれた素晴らしいものを次へと繋げるものであって欲しい。
美しい自然環境であったり、先人たちの知恵や技術や、地場を豊かに循環していく仕組みだったりと、私たちはたくさんの恩恵を頂いています。そこには無くしてはいけない豊かさがあります。
きっとそうやって建てられた家は使い捨てにされることなく、さらに家族の歴史や思い出とともに深みが増していく住まいとなります。そんな家づくりのお手伝いができればと考えています。

 
 

1.伝統構法の家づくり

伝統構法は、柱や梁、建具がはいる敷居や鴨居、土台さえも大きな材の造りです。
その大きな材で余力をもちつつ長い視野で家をささえています。
これら全ての材が『総持ち』と言って家を支える大きな役割をします。木を幾重にも組んで、一部ではなく全体でもたせることで力を分散し、粘り強くそして柳のようにしなやかに地震の力を受け流す働きがあるのが、日本古来からの家づくりです。

伝統構法がしなやかに地震の力を受け流す『柔らかさ』をもった造りであるのに対して、現代工法は筋交いや合板で壁をガッチリと強く固める『かたさ』をもった家づくりです。その両者はまったく地震への構えが異なります。

現代の家は、強く固めてその『かたさ』で地震に耐えようとする性格の家です。
壁や床も強く固め、それ以外の仕口や継ぎ手にもそれと同様の強さを必要とします。
しかし固い反面、強度以上の力が掛かった時には粘りがないため一気に倒壊しやすいという性格を持ちます。また仕口や継ぎ手に弱い部分があると、その固さを受け止められず耐えられません。それは足首を痛めた力士が相撲をとるのに似ています。
しかし家は当然のように年老いていきます。建築時に100%だった耐力は永久的ではありません。暮らしていくなかで合板が湿気を含んだり、接着剤が弱まったり、木とは異質の金物が緩んだり、また雨漏りや虫の害などで腐りや傷みだって生じてくる事は当然のようにあります。
特に現代の家の断熱化は結露の恐れをはらんでいて、地震のひと揺れで気密低下をおこし結露による腐りが生じる恐れが高いと言えます。はたして長い目でみてその『かたさ』をずっと維持しつづけることは可能だろうか?『かたさ』をもって命をまもろう地震に耐えようとする構造に、長期的視点での疑問が残ると言えます。

一方、伝統構法は家を強く固めることはせず、その柔らかさをもって地震のエネルギーを逃がしていく造りです。ここに、地震国で培ってきた先人たちの知恵をみます。
柔らかいと言っても大きな木が幾重にもガッチリと組まれていくことで簡単には壊れない『ねばり強さ』をもった造りです。地震時にはその幾多の木材たちがめり込み合って地震の力を吸収し、家が揺れ動き土壁が割れる事で地震のエネルギーを発散させ減衰させていきます。
そして固めない事での”遊び”が、仕口や継ぎ手への力の集中を防ぎ、弱い所やどこか一部分に無理をかけず木組み全体で家を支え、大きな地震から長期的に家を守る仕組みが組み込まれています。
力に対してまともに力でぶつかるのではなく、柔らかく力を受け流す。
先人たちが選択してきた『柔よく剛を制す』という精神には、地震国で育まれてきた教えがあると、伝統構法にも感じることができます。

*石場建てのすすめ

柔らかく力を受け流すための奥義として『石場建て』という造りがあります。
柱を石の上に建てるそのつくりは、決して金物がなかった時代の『古臭い』方法ではなく、深い意味をもっています。
石場建ては、現代工法のように建物を基礎に縛りつけない事で、大きな地震のときには建物が動く余地をのこします。上屋が地震の揺れに耐え切れなくなるような大きな力がかかった時に、礎石のうえで柱が動いて地震のエネルギーを逃がすという免震構造的な働きをするのです。
熊本地震では被害中心地で『石場建て』の家が80cmも動いたという報告を聞きました。もしその柱が基礎に縛られていたら・・重い家を80cmをも動かしたエネルギーが全て家にのし掛かる事になった訳です。この家が倒壊せず人命を守り修繕することで住み直すことが出来たのも、地震のエネルギーを『動く』ことで逃がしたからです。

そのほか石場建ては、床下が風通しよく、湿気がこもることのない造りです。
シロアリや腐れに対して、薬剤にたよることのない家です。
見通しの良い床下は、長期的に家を維持管理していくのにも点検しやすく、床下のトラブルを早期発見しやすく修繕しやすい造りです。「家の弱りは足元から」と言います。足腰が弱れば人間と同じように体を支えることが出来ません。家の強度も寿命も足元が一番肝心なのです。目視が容易であることこそ大切なのです。
現代的な家は、基礎で外周を覆われて床下は目視が不可能です。維持管理や点検、修繕がしづらく、床下に風も抜けにくい造り。シロアリ防除は体には毒なうえ、定期的に防除を繰り返すしかありません。そこに多くの根本的な問題を感じます。
石場建てが、日本の気候風土のもと地震があることを前提に、人間の予測出来ない事に対してもよく考え込まれ、検証され続けてきた造りであることが良く分かります。

伝統構法には、たくさんの安心安全に暮らしていくための知恵が詰まっていると言う事がほんの少し分かって頂けたかと思います。
「石場建てを含む伝統的構法木造建物の設計法」のための実物大の実験の映像がありますので、ぜひご覧下さい。

2.手刻みが基本

なんと言っても木の家は手刻みが基本です。
手刻みによる加工はプレカットとは異なって細部の仕口や継ぎ手に、職人それぞれの工夫やこだわりがよく現れるところです。仕口や継ぎ手は一様ではなく、その場ごとの木の癖や力の掛かり方などを見極めながら進めなければいけません。出来上がれば見えなくなるような仕口の細部ですが、大工さんは仕口にとって最高の塩梅となるように探りながら木を刻みます。仕口が集中するところは木材の欠損が大きくならない様に、その場ごとの工夫を加えます。こういった一つ一つの気配りや気遣いが丈夫で美しい仕事に変わります。
実際に仕口のサイズをほんの数ミリ変えるだけでも差し口の強度は変わってきます。長く丈夫な家にしていく為には、じっくりと墨をつけつつ刻む余裕が木の家には必要です。プレカットは効率よく木材を大量に加工するために出来た機械であり、加工のローコスト化は可能となりましたが、そのスピード感のもとでは良い物づくりは出来ません。一時の仕事の効率を優先するのではなく、大きな地震がきても持ち堪え又100年家を持たせるに相応しい仕事は、人の手による手刻みです。

3.自然乾燥・高樹齢目込み木材を使っています

一般的な家づくりの現場の多くは高温乾燥した木材の使用が主流です。
しかし高温乾燥材は木に無理を生じさせ内部割れをおこし、木の家でもっとも要である柱や梁の接合部である仕口を弱めることにつながります。また木の油が抜けきってしまって色味も落ちるうえに、水に弱く腐りやすく虫の害にも弱い木材となって家そのものの寿命を短くしてしまいます。大工さんが良い仕事を発揮するためにも、木材はまず第一にこだわりたいところです。
野の草の家づくりでは、家の骨格となる構造材には『旬伐りした80年生以上の高樹齢目込み材ー*』をつかって自然乾燥をさせ、命を守るために相応しい木の家づくりをおこなう事をベースにしています。

*木材は縁のものなので、市場に良質な原木が出てこない事もあり、
全部が全部80年生の目込み材が揃わないこともあります。

4.熟成土による土壁

心地よく快適に暮らすために最も欠かせないと感じるのが土壁です。
全ての生き物をはぐくむ大地の土をつかった土壁は、まるでお母さんの懐に包まれるかのような温かさ心地よさがあります。きっと母なる大地の土には生き物を癒す目に見えない力があるのだと感じます。
実は土壁も奥がふかく、長く耐えるため幾つか野の草のこだわりがあります。

 
 

一.荒壁土の吟味、熟成土の使用
荒壁ならなんでも良いというわけではありません。
藁を何度も足しながら藁が繊維だけになるまでじっくりよく寝かせること(熟成させること)で、割れのない、雨にも強く、強度の高い耐久性のある荒壁に仕上がります。季節によりますが最低半年~1年寝かせて熟成土にします。

その熟成土をつくるための土の吟味は、もっとも荒壁づくりの重要な要素となります。砂分が多いサクイ土はいくら寝かせたところで熟成効果は低く、粘性土の良質な土を寝かせることで土が締まり密度が高い強い壁になります。
家を長くもたせるための必須それが熟成土荒壁なのです。

↓熟成してよく締った荒壁土は密度が高いため、表面割れが出ないという特徴があります。

 
 
 
 

二.きちんとした素材を使用(縄・貫伏せ・漆喰)
長く壁をもたせていくためにも安易な建材ものは使いません。竹小舞をかくための縄は昔ながらの藁縄や棕櫚縄を使います。ビニール縄は使い勝手が良いものの長期的には耐えない素材で、実際に劣化した縄を見ます。藁縄は荒壁の乾燥とともに縄自体も一緒に締まって丈夫になっていく働きがあり、目に見えない素材にも先人たちの知恵が秘められ大切にしたいところです。
貫伏せなども建材的なメッシュ製品がよく利用されますが、長くもち堪える棕櫚を使用。漆喰や珪藻土にも化学糊や化学繊維は使用しません。
それが野の草の物づくりの姿勢です。

 
 

三.縄の掻き方(編み方)ひとつも
大工さんの仕事同様に、出来上がってしまうと見えなくなってしまう仕事というのは、おろそかにされがちですが、家の強さや耐久性に影響するところです。
左官さんの仕事も見えないけど大切にしていきたい仕事。
土の質や素材と共に、竹小舞の縄の掻き方は丈夫な土壁をつくる要素の一つです。
一般的に使われる『螺旋巻き』は作業が容易な編み方ですが、縄を引っ張れば解けやすい編み方となり、一方、千鳥に竹に縄を交互に締め付けていく編み方の『千鳥編み(ちどりあみ)』は編みづらい掻き方ですが、縄が解けにくく緩みにくい小舞竹の編み方です。たかが藁縄の編み方ですが、こういった一つ一つが大きな地震の時には粘りとなって働いてくるのが、昔ながらの家づくりです。

『千鳥編み』
ひと手間ひと手間が大切

5.きちんと長くもたせる本物素材をつかう

安さを謳う安易な素材は、時と共に味わいが深くなる素材ではありません。
一時的に家を安く建てられたとしても、年月経たないうちに傷んだり見るに耐えなくなってきて、早い時期にほころびた先から修繕を余儀なくされる”安物の高物”です。
野の草は時と共に風合いが増し、家族の思い出と共に艶を放つような住まいをつくっていきたいと思っています。そのためにも長くもち堪えて時間とともに風合いが増していくような本物の素材や仕事の選択をします。
例えば無垢の木材なら大切に使えば使うほど色艶も良くなっていきますが、ベニヤや合板類は接着剤の寿命とともにその薄い表面が剥がれ醜くなってきます。
また和紙ひとつにおいても、きちんと作られた本物と、一時だけ持てばよいという発想の偽物はまったく次元が異なるものです。たかが和紙と思うかもしれないけど、本物が放つ美しさ時間の経過による耐久性や風合いは、比べようもないです。

>>本物の和紙(古式製法の和紙)とは?

たった和紙ひとつさえもそうなのですから、家づくりは選択の連続です。
だから一つ一つをきちんと本物を選択していくことが、長い目でみてお金もかからないし、最終的に長く住んで愛着が湧いてくるような家にしていく事になります。
本物素材の心地よさは、毎日の暮らしを心満たす質の高い豊かさをもたらしてくれるものだと感じます。またそこで生計を立てる職人の手仕事を守り、そして私達の社会をも変えます。
使い捨てではなく、長くその価値を放つような物づくりを思い描いていきたいと思っています。

6.施主参加型の家づくり

伝統構法でつくる家づくりは、どこまでも人の手をとおして生み出される物づくりです。
だからこそ出来上がっていく過程にこそ面白みや人間味や喜びがあります。
出来上がった商品を『買う』でない、『一緒につくる』という喜びがあります。
また私達つくり手も商品を『売る』でない『一緒につくる』という喜びがあります。
どこから木材がやって来て、どんな職人がそれを刻んで、様々な職人たちの関わり合いで出来上がっていく我が家を知る。家に使われる原木を見に行ったり、竹小舞を一緒に掻いたり土壁を塗ったり、職人たちの工場を訪れ作業風景を見学したり、自分たちもお茶を出したり掃除をしたり、時には物づくりに参加したりと、職人と一緒になって自分たちの家づくりに関わっていくことで、確実に我が家への愛着や満足が増していきます。
また関わった分、家が出来てからの家の維持管理への意識がつきます。
刻々と形づくられていく美しさや感動を職人さんたちと分かち合いながら、汗を一緒に流すことはお金だけの付き合いではない関係を築いていくことにもなります。
昔あった家づくりのように、人や自然の素材たちと深く関わりあいながら共に造りあげていく、そんな家づくりを野の草はとり戻していきたいと思います。
家づくりはお任せではなく、自分たちの家だからこそ積極的に関わり合いながら、一生に一度の家づくりをおおいに楽しんでください。

 
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